年始に食事をした人は、わたしにこう語りかけてきた。正確にはメソニクスという犬のような四足歩行の動物が、イルカの祖先なんだって。ふーん、変なの。
その人の話はいつもほんの少しだけ、変わっている。身近にこんなことを教えてくれる大人はいなくて、その人の話はいつ聞いても面白い。興味関心の矛先がとても似ていると感じる。私以外のひとだったらきっと退屈してしまいそうな話ばかり。仲睦まじい夫婦や、初々しいカップルがオムライスを食べる傍らでわたしたちは海の中の最強の生物について話をしていた。海の中で一番強い生き物、私は大きさ的にクジラだと思っていたけれど、どうやらシャチの方が強いらしい。シャチの学名はホエール・キラーで、彼らは頭を使って仲間同士連携を図り、漁をすることができる。自分たちよりも体の大きなクジラを追い込んで捕える力もあるんだそうだ。知らなかった。でも、クジラもシャチも哺乳類なので厳密にいうと水中の生物として強いのはサメ。サメは魚類の中で1番強い。そして彼らの肉は美味しくない。誰にも食べられることもないため、つまり最強なんだ。
食後のコーヒーが濃いからといって水を入れて薄めながら、真剣な眼差しで語りかけてくる。もっとほかにあるでしょうよ、私たちの逢瀬に見合ったロマンチックな話とか。でも私にとっては、それでよかった。海の中の最強生物の話が楽しくて仕方がなくて、それがそれよかった。ひさしぶりにこんなにたくさん笑った。笑いながら食べたほほ肉のビーフシチューがとてもやわらかくて、おいしかった。
その人と私は夏に熊を見に行った。曰く、陸上で最も強いのは熊だったから。この熊なら勝てそうだとか、ヒグマには到底敵わないだろうとか、将来目指すところ百獣の王だと言い張るその人が真剣に熊と対峙している姿が愛おしくてたまらなかったことを思い出す。こうしていつまでも子供のような心でいてほしいと願っている。そしてまた私におかしな話を聞かせて欲しい。次は空飛ぶ鳥たちの中で一番強い者はなにか聞いてみよう。
ちなみに、イルカは人間の絵画や切り取るイメージによってファンシーでかわいい印象があるが、実のところ目が冷ややかでとても笑っているようには見えないんだそうだ。人間のために従えて"やっている"いつどんな時でも本来の力を出せば、簡単に人間なんて殺してしまえる。そんなこと考えたこともないけど、言われてみれば、そんな気もする。わたしはベルーガの頭を触ってみたいという夢がある。体験ができるアクティビティも日本にはある。もしもベルーガやイルカを間近で見られる機会があったなら、真っ先に瞳を覗いてみたい。このようにして、私はあなたと出会ってしまったばっかりに、この世界の面白さに気づく羽目になった。
