パンチラ追って知らない街へ

すべて作り話です。

2020-01-01から1年間の記事一覧

翼になりたいと思った話

出逢うべくして出逢うものは、人と人との巡り合わせだけではない。音楽も文学も短歌も映画も出逢うべき時に、出逢うべくして、出逢うのだ。私にとってのそれは今、故・ 萩原慎一郎ただひとつの歌集「滑走路」である。 今年の夏に、私は自らの手で大きく人生…

ボリューム満点激安ジャングルに欲しいものなんて何もない話

近所にドン・キホーテがある。深夜まで営業していて、仕事で遅くに帰っても、残り僅かな消耗品のことを急に思い出しても、買いに行ける便利さに日々感謝の気持ちでいっぱいだ。ドン・キホーテは何よりも薄利多売で安物が数多く品揃えられている。この町に越…

拝啓、親愛なる大将と奥さまへ

大学1年生から3年生の後期まで、地元のスーパーマーケットでアルバイトをしていた。スーパーには珍しく深夜23時まで営業をしていたから時間を持て余す大学生にとっては都合のいいアルバイト先だった。そのスーパーの近くに、こじんまりとした居酒屋があって…

昨夜見た悪夢の話

そこはわたしの部屋で、窓からは電車が見えていた。普通ならあり得ない間取りだけど、窓を開けると同じ高さに線路があって、電車が通るたびに乗客と目が合う。突然、けたたましい衝突音とともに女性の叫び声が聞こえた。その直後部屋の窓が大きく割れた。窓…

つづきの夜に。

高校の頃通っていた塾でなんとなく仲良くなって、なんとなく帰る方向が同じで、なんとなく話の波長の合う友人から、卒業した今でも約半年~1年周期で連絡が来る。それはあまりにも唐突で、大胆で、毎回いつも驚いてしまうけど、久しぶり、の言葉のあとにわた…

灯台下暮らし

この8畳1Kでの暮らしを初めて1か月と少し。随分とこの部屋も私のことを家主として認識し、受け入れ始めてくれているのではないかと思う。朝、カーテンを開けると南西向きにある窓から、満遍なく日差しが入る。洗濯物が乾きやすく西日が見られることを理由に…

20200812

わざと部屋の一番目立つところに、あの夜引き渡された大きな紙袋を置いている。そのなかにはわたしが使っていたパジャマとエプロンと洗面用具、そしてもう二度と元に戻ることはないという強い決意が、丁寧に畳んで入れられていた。部屋に入るたびにわたしは…

足踏みで減らす靴底

今年も無事生きて、25歳をむかえることができました。おめでとうございます。を、ありがとうございます。いくつもの祝福たちを小脇に抱えて、一日中はにかむ頬を内側から噛み締めながら仕事に励んでいた。今年はいよいよ嬉しくなくなるだろうと思っていたの…

すがる

祖父の納骨式のあと、ちえこさん(父方の叔母)からひさしぶりに会わないかと連絡が来た。祖父の葬式で会ったのが十数年ぶりで、それまではお互いの存在にさして興味がなかったんだろうとおもう。知ろうともしなかったし、知ってほしいとも特に思わなかった…