パンチラ追って知らない街へ

すべて作り話です。

2018-01-01から1年間の記事一覧

アンチモニーと宝物のメロディ

話したいことなんて山ほどあった。なにを話してもきっと細い目を更に細めて、笑ってくれるに違いなかったから。なんでもないようなわたしの暮らしを、会えなかったあいだに過ごしてきた日々のことを、ただ聞いてくれさえしたらそれでよかった。会いに行くこ…

ふるえれば夜の裂け目のような月

あなたが特別に したんだぜんぶ いやはや、一緒に星を見てから1年が経ちましたね、早い。ちがう、二日まちがってる。僕は曜日だって覚えてるのに、ほんと忘れっぽいよね、そろそろ直して。ごめんごめんって平謝りする。いつのまにか春夏がおわり、秋になっ…

プチガトーのうしろすがた

わたしは物心ついた時からケーキが行儀よく並ぶショーケースを、裏側から眺めていた。明るくライトで照らされながら規則的に並ぶ、きらめくケーキの後ろ姿を見ることがだいすきだった。名前も知らないクラシックの音楽が常に流れる店内は、道路に面して店を…

トゲの在る場所

毎日こてんぱんに叩きのめされている。今まではどうにかして逃げ道を探して避けてきたおおきな壁にまっこうから向かっていかなければならない。それは想像を絶するほど高く分厚く、なんならトゲとかもあって。まだその壁を登る手段も得てないわたしは壁のす…

星に帰った不道徳ちゃんの話

あなたとの夜を、何度想像しただろう。出会った頃には既に手に入らなくて、手に入れてはいけなくて、だからこそ欲しくて、でも決して多くを望んだりなんかしなかった。 だから、二人きりの時間を過ごそうとあなたから言ってきてくれたときはどうしたものかと…

‐ピンクネオン‐

月末にはここをやめるの。毎週火曜日に訪れる常連のその人はお酒を飲む手をピタリと止めて、わたしの顔を覗きみた。それは、本当に?兼ねてからわたしは腰掛けのアルバイトにすぎなくて、一生をここで従事するつもりはないということを伝えていたはずだった…