パンチラ追って知らない街へ

すべて作り話です。

トゲの在る場所

毎日こてんぱんに叩きのめされている。今まではどうにかして逃げ道を探して避けてきたおおきな壁にまっこうから向かっていかなければならない。それは想像を絶するほど高く分厚く、なんならトゲとかもあって。まだその壁を登る手段も得てないわたしは壁のすぐそばでクルクルと回っている。年次の高い先輩たちにまずはトゲの攻略方法を教わる。あれ、けどこのトゲって本当に取っていいんですか?取る道具ってどこにありますか?ってかここにある赤色のトゲって取っちゃって大丈夫なやつですか?登る手段にすらまだ達していないわたしの道はまだまだ険しく長く果てしないのでしょう。

運良くわたしの上司は、今まで接してきた誰よりも厳しく、何よりも正しい。この人の言うことをひとつ残らず聞いていればいつかは壁を登れる気がする。早く登れ、早く登れ、うしろからどんどん背中を押されるから前に進まざるを得ない。しかし驚くべきことに、それをわたしは嬉しく思う。

今まで避けてきた多くの壁たちにわたしは未練があった。それを超える手段を誰にも聞かずにいた。その壁を越えられなくても誰ひとりとして迷惑を被らないからだ。けど今はそうではない、壁の向こう側に、わたしが乗り越えるのを待っている人がいる。乗り越えることを期待しているひとがいる。その期待を裏切るわけにはいかない。どうにかしてでもわたしは壁を乗り越えていきたいとおもう。それが実は間違っていようとも、壁の向こう側には更なる険しい壁が再び立ちはだかっていようとも、超えることを選択したのは自分なのだから、きっと後悔はしないはずだ。登ることをあきらめることはずっと容易い。

これから続く、労働という壁。乗り越えた先になにが見えているのかわたしには知る由もないけれど、何を見ることができるのか、興味がある。早く登りきりたい。いつになるのか分からないができるだけ早く、できるだけ遠くに行きたい。労働は覚悟していた以上に厳しくて険しくて、だけど何もなかったわたしにとって唯一本気で向き合えるものだ。どうかこの想いだけは忘れずにいたい。忘れないでくれ。いつのまにか増えている 心の宝物 を増やしていきたい。悔しくて、ときには嬉しくてたまらない夜を増やしていきたい。