パンチラ追って知らない街へ

すべて作り話です。

つづきの夜に。

高校の頃通っていた塾でなんとなく仲良くなって、なんとなく帰る方向が同じで、なんとなく話の波長の合う友人から、卒業した今でも約半年~1年周期で連絡が来る。それはあまりにも唐突で、大胆で、毎回いつも驚いてしまうけど、久しぶり、の言葉のあとにわたしはできるだけ直近で空いている日にちを提示するのだ。いつもわたしたちはそのようにして、突然会う約束を取り付ける。

わたしたちは互いが別の高校に通っていたから塾の帰り道にそれぞれの高校生活であった出来事や、些細な憤りや、浮ついた色恋話なんかを小一時間話して帰路についていくのが日課だった。利害関係がない分、同じコミュニティの女子たちに話すよりずっと本音を話すことができて嬉しかった記憶がある。そんな夜を地続きにしたまま、今日までつながっているような感覚。わたしたちは公園のベンチからところ変わって居酒屋にて、向かい合わせに乾杯をする。グラスを傾けた瞬間から目にも止まらぬ速さでふたりは会話を始めるのだった。彼女はわたしの性格と相反して、論理的で正義感が強く芯のある女の子。そんなあなたの口からあふれ出る日常に対する意見や、不平不満は他の誰よりセンスがあるからなんだか昔から少しも嫌な感じはなくて、まるで漫談を聞かせてもらっているみたい。悪口にはユーモアが無いと聞くに堪えないからね。

わたしよりずっと賢くて、県内の有名な進学校へと進んだ彼女は、自分の意見を貫き通す度胸もあるからわたしまで力強い気分になれて頼もしい。よく二人の話題に上がるのは、隣の青く生い茂る芝生の話だとか、どう解釈しても許せないことや、自分のなかにある正義と、人生に対するわたしたちなりの見解だった。彼女は話すこともさることながら本当に聞き上手だから、普段人に話すことを憚られるパーソナルな過去だっていつの間にか話してしまえる。彼女は論理的で賢いけれど、真っ直ぐで人の痛みのわかる女の子だってことわたしは知っていて、きっと話をしても受け入れてくれるだろうと思っていたから躊躇いなく話すことができたんだ。わたしの話した過去は結構重苦しいものだから、できる限りおどけながら話したつもりだったけど、彼女は目に涙を浮かべながら相槌を打ってくれたことが印象的だった。わたしたちの話題によく挙がる「隣の青く生い茂る芝生の話」これはただあの子の芝生はキレイだ、いや劣っている、なんて話しているわけではなくて、その青々とした芝生が完成される背景にある試練や苦労を彼女と私はおそらく、全部わかってる。だから妬みや嫉みのないただ純粋な憧れをお互いに共有できる時間になる。そんな話をできる友人は、数少ない。大抵は青く生い茂る芝生をみてどうしてあの子だけ、どうして私にはないのだろう、と息巻く人のほうが多いから。

他人の芝生をほめそやし、覗き見ることはするけれど、結局のところ自分の芝生は自分に見合う美しさを持っているのだからなんら心配する必要がないんだろうな。彼女と話していると、そんな前向きな気持ちにもなるのだった。いつも彼女の唐突な誘いは、わたしがうつむいているときを狙ってきているみたいで、なんてタイミングがいいんだろう。次の続きの夜があるのなら、今日より前を向いていたい。