パンチラ追って知らない街へ

すべて作り話です。

中津川ソーラー武道館

2018年から毎年行き続けている地元のフェスの話がしたい。何をきっかけに行くことになったのかは正直まるで覚えていないのだけど、2018年の主要たる夏フェスがそろって終わりを迎える9月下旬に、地元岐阜県中津川市で開催されるフェスの存在を知った。中津川という地は岐阜県の東濃エリアに位置していて、自然豊かな山合いが連なっており、言葉を選ばすに言うとクソど田舎である。岐阜県がただでさえ郊外だというのに、そのさらに奥まった地にある場所だった。近々リニアが通るらしいので今後都市化する噂なんかもあるくらい、未開発の山ばかりある。

そんな場所でフェスが?地元のお祭りとかではなく?なんて半ば疑いつつも、出演アーティストを見てみると当時でさえ勢いのある邦楽バンドの数々やJ-POPからもそうそうたるメンツが訪れるとの情報であふれていて、驚いた記憶がある。それでは行ってみようじゃないかと足を運んでみたのが私と中津川ソーラー武道館との一番古い記憶である。

中津川ソーラー武道館と、他のフェスとのちがいを挙げるとしたらロケーションの素晴らしさにあると思う。会場は前述の通りクソど田舎あらため、山々が広がっていて標高が少し高い場所にあるので空気が澄んでいるように感じられる。会場は三つの丘にまたがって設営されていて移動には階段を必要とするが段になっているから移動がしやすい上、一番高いところから会場全体の景色を見下ろせることも他のフェスとは大きく違う点にあると思う。夕方になると目前に広がる山々と、会場と、夕景が圧巻でコロナ禍になる前はシンボルとして巨大な気球を飛ばしていたからそれも相まって美しい景色が広がっていた。何より、開催が毎年9月下旬とあって夏の強い日差しを感じることもできるし火照った体を優しく撫でる秋の涼しい風が何よりも気持ちいい。それを大好きな音楽と共に一日中感じることができるフェスを私は他に知らない。そんな唯一無二の中津川ソーラー武道館に惚れて、毎年行っている。

コロナ禍により開催中止を余儀なくされていたが、今年3年ぶりにここ岐阜県中津川市に帰ってきてくれた。開催を知ったその日に、毎年同行してくれる友人に連絡を入れたところ二つ返事で一緒に行くことが決まって、もうその瞬間からフェスが始まったといってもいいくらい。徐々に発表される出演アーティストたちにワクワクするのも久しぶりのこと。コロナ禍で行動制限を強いられている頃も、オンラインで過去のライブ映像を配信するなどして、主催者が観客を楽しませるために試行錯誤していたことは良く知っていたけれど見るたびに参加したい気持ちばかりが大きく膨れ上がり、実際に行ったことがある手前、満足できなかったこともまた事実だった。

開催が叶わなかった年の悔しさや、開催に至るまでの苦悩を思うと主催者に対して感謝の気持ちで頭が上がらない。2022年の開催を決断してくれて本当にありがとうございました。会場で必要となる電力をソーラーパネルを使って発電すること、リユースカップカーボンニュートラルを実現させること。「太陽のフェス」そう呼ばれる所以はここにもあり、自然豊かな地で行うからこそ環境に配慮したフェスの開催趣旨含め、素晴らしい催し事だと思っている。

そして、迎えた一日目は降水確率90%の土砂降りだった。開催日までの1週間、何度も何度もウェザーニュースを眺めていたが雨雲はしぶとく中津川の空に居座り続けたのだ。3年ぶりの開催に浮足だった気持ちと同じ程度の、今年くらいは晴れてほしかったというやり場のない失望感。私自身、雨天のフェスはおよそ10年ぶりだったので例年通り楽しむことができるのかと不安さえあった。念のため雨具をそろえて当日を迎える。先に伝えておくと、この時抱いていた些細な不安なんてすっかり忘れてしまうくらい、今年も素晴らしかった。

JR中央線を乗り継いで、電車に揺られること1時間。3年ぶりの中津川駅に到着した。せめて小雨なら、、という淡い期待も虚しく、容赦なく降りしきる雨、雨、雨。この時はまだ土砂降りではなかったものの、シャトルバスまで向かう道のりも気が滅入るほど雨が降っていた。今年は感染対策の一環で来場者登録や、バスの予約などの手間も増えて疫病を憎んだ。ただ、この大好きなフェスを成功させるためには、演者はもとより観客一人一人の意識がとても重要だと思う。手際よく受付を済ませていざ会場へ。同じく雨具に身を包んだ人たちは口々に、ロケーションのすばらしさあってのフェスなのにと残念そうに呟いている。その気持ち、とても分かる。20分程で会場に到着すると、見覚えのある道のりと会場を指し示す看板が目に入り、とても懐かしく思った。たった3年前ともいえるが、随分と月日が経っているような気もする。私たちの環境は変わっていないようにみえてきっと3年前とは全然違う。それでもここにまた来れたことが嬉しい。そんなことを思いながら、来場者用リストバンドを身につけて、ノベルティのステッカーをもらって会場内へと足を踏み入れた。

会場の敷地はそこまで広くないので、会場入りした瞬間からどこからともなくリハの演奏が聞こえてきて思わず駆け出したくなってしまう。本日のタイムテーブルによるところまだ急ぐ時間でもないのに、入り口を抜けた瞬間に走り出したくなるくらい、ここは日常と大きく切り離された非日常的なフェスだと実感できる。某テーマパークの入り口をくぐり抜けた時と同じようなきもちを胸に、わたしたちはメインステージへと向かった。