パンチラ追って知らない街へ

すべて作り話です。

優しい人

別れ際にそう言われたけれど、自分のことを優しい人だなんて思ったことはこれまで生きてきた人生の中で一度たりともなかったんだよね。だから不思議だったよ。優しい人、なんかじゃないよ。わたしはただの弱い人間、わたしはただの主張の無い人間、わたしはただ人に流されて、流れ着いた先で出会った人間の、目に見えない顔色を伺って、まるで善良な人間みたいに装っているだけの人間。どうして君には全く意思がないんだ。と、ごくたまに鋭い人間に痛いところ突かれてしまう。そんなふうにわかったような顔で、わたしに問い詰めたところで無意味だってどうか気づいて。ほとんどの人間は、自分の意見を否定せず、心地の良い笑顔で肯定しながら、それでいて従順な人間のことを悪い人間だなんてきっと思わない。だって貴方もそうでしょう。今までずっと、そういった態度を、振る舞いを、色んな人に許されてきたんでしょ。ずっと。私も許されてきていたら、もっと自分の意見を大きな声で主張して、嫌なことは嫌だと伝えて、時には不服そうに怪訝そうな顔で振る舞ってみせて、それに対する誰かの意見なんか聞く耳を持たないでいれてたかな。いいなあ。でもこれは皮肉で、これは嫌味だ。あなたたちみたいな人間に蔑まれたとしても私の誇りを傷つけることなんてこれっぽっちもできっこない。もうこれまでだってずっとそうだったように、これからもずっと私は変わるつもりはないのでどうか貴方も、そのままでいたらいい。私は優しい人だから、静かに消えてあげるから。