パンチラ追って知らない街へ

すべて作り話です。

少年勇者アトレーユ

真冬の深夜22時半過ぎなのにわたしの頬はほんのりと紅潮し、吐息はピンク色をしている。何を言うてんねん。今日のかえりみちは、なんだかあんまり寒くない。朝から遅延電車に巻き込まれて大遅刻したり、偉い人に高い焼肉ランチとタバコ2箱も買ってもらえたり、良いことと悪いことのバランスが取れた1日だった。

昨日湯船に浸かった話を書いたけど、隣の席のギャルが今日「日々の一番の楽しみは湯船に浸かることだ」と息巻いていて、すぐに自分を愛せている側の人間なんだなと分かり感心した。私がギャルマインドを持つにはまだ相当な鍛錬が必要に思うけど、やっぱり尊敬してやまない。めずらしくギャルも仕事に追われていて、励まし合ってブツクサ文句言いながら捌く残業時間が楽しかった。愚痴も方便もなんだかユーモアに満ちていていつも聴き飽きないなあと思う。

ところで、ひとりの人間に全ての役割を担わせる必要ってない。これは2023年から本日に至るまで一番強く感じた人生観のひとつ。なので日毎何度も反芻してしまう。あなたの前でのわたしが「あなたの前だけ」のわたしであるのと同じように、私に見せてくれるあなたは、私の前だけのもの。他の一面も見てみたいと欲張りになる気持ちもわかるけど、きっと見せてくれること以外は見ようとしてはいけない。埋まらない心の穴があるのなら、ピッタリ埋められる人間を別で見つけたほうが早い。

逆もまたそうで、私の他の一面を見てみたいと強要されると私は後ろを向いて全力で逃げ出したくなってしまう。私はいろんな一面や顔を持っているが、どうか暴かないでくれといった具合に。だから、あなたの前限定であることを心得た上で「ありのままの私」だけを受け入れてくれる人間のことはずっとずっと愛していける。

痛そうな話を聞いて、思わずゴクリと生唾飲み込むわたしのことを素直なやつだって笑って愛でてくれた人間に会ったあとに思う。この人にもわたしが知らない一面はまだきっとたくさんあって、それらを軽々しく知ろうとしたらこの深夜のささやかで特別な夜は、いとも簡単に消えて無くなってしまうのでしょうねと。だからあなたが求めるわたしだけを見せて、わたしに許されたあなただけを、しかと目に焼き付けていく。