パンチラ追って知らない街へ

すべて作り話です。

「灯台守の話」

どことなく日々がささむけていたため、休日は好きなことに思う存分、時間を費やしてみることにした。現実世界からの一時的な待避として、読書を選ぶ。

ジャネット・ウィンターソン/翻訳:岸本佐知子の「灯台守の話」を読んだ。金曜深夜から、土曜は午後に起きて、本を読んで少し眠ってまた読んで、夕方頃に読み切った。

孤独で盲目な灯台守のピューが、孤児となった少女シルバーを灯台守見習いとして引き取り、夜ごと物語を聞かせるという話。

私はかねてより灯台に強く関心を持っていて、この本の存在を知った時、私が読まなければ誰が読むのだ!と感激した。これまでに足を運んだいくつかの灯台を思い出す。物語に出てくるピューとシルバーが一緒に食事をするフルネルレンズの下や、長い螺旋階段は実際に私が訪れたものと同じ描写で描かれていて、文章だけでも眼下に広がる青くて広大な海と空とそびえ立つ白亜の灯台とたくさんの鳥たちが目に浮かんだ。

ピューはたくさんの話をシルバーに聴かせる。ピューは老人であるけれど、実年齢は書かれていない。彼の語る物語は100年や200年も前のもの。嘘か誠か分からないようなお話の数々、それでもシルバーにとっては興味深いものばかりで毎日こう語りかける「お話しして、ピュー。」

灯台守の仕事は、私の想像していた通り孤独と闇との戦いだった。いつか灯台守になりたいと憧れる反面、相当の忍耐力を要する酷な仕事だったのだろうと想像する。けれど、灯台の一つ一つには語られるべき美しい物語が、灯台の数だけあって、灯台守の務めは「光の世話」と「物語を語ること」であったのだ。数百年前の船人は、地図のない航海に出るたびに岬の灯台の物語を思い出しながら、旅をしていた。ともすれば、一つ一つの灯台に、ピューのような孤独で静謐でそれでいてお話好きな灯台守がいたのだろうかと想像を膨らませる。毎日変わる海や天気の表情と、人々の流れ、それでも確固としてそこに変わらない姿のまま何百年にも渡り立ち尽くす灯台。どうか、すべての灯台が持つ物語を知りたくてたまらない。

この本を読むことで、灯台守という存在が確かにあったこと、暗く深い海を一定の時間に照らし続けるあたたかい存在であったことを解像度高く知ることができた。灯台にたいする思い入れがより強くなる一冊であった。

何より最も感激したのは、西洋の海、ケープ・ラス(怒りの岬)には、この物語のモデルとなった灯台が実在する。そしてその灯台は、私が一生に一度は訪れてみたいと憧れてやまない「ベル・ロック灯台」だった。灯台好きに拍車をかけて、自ら世界の灯台が紹介されている写真集を買った時に、荒々しく波打つ海の真ん中に猛々しくそびえるベル・ロック灯台に心奪われた。それがこの物語とリンクしていたと知って、より一層、ベルロック灯台に対する憧れが増した。私は灯台が大好きだ。いつかこの灯台をこの目で見てみせる。

お話しして、ピュー

どんな話だね?
ハッピー・エンドの話がいいな。
そんなものは、この世のどこにもありはせん。
ハッピー・エンドが?
おしまいがさ。

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