パンチラ追って知らない街へ

すべて作り話です。

マイベストタイムミュージック

私には特技がある。昔から音楽が好きで、暇さえあれば音楽を聴いていて、人より孤独(さみしいという意味のそれではなくただ純粋な一人であるということ)でいる時間が少しだけ長いので、音楽を聴く時間が自然とたくさん訪れるといったような暮らしだ。そんな暮らしの中で聴く音楽は、様々なシーンに合わせた、自分だけのBGMを常に鳴らしているともいえる。時折「わたしは今、きっとこの瞬間を絶対に忘れないぞ」と固く誓う一瞬がある。すると、その時に流れていた音楽と、外の気温と、時間と、自分の感情に至るまでを数年が経ったあとでも鮮明に思い出すことができる。人は、嗅覚で感じたものが最も記憶に結び付けられるというけど、わたしの場合、聴覚であると思う。思い出すために聞く音楽があって、聴くために思い出す瞬間がある。うすぼんやりとした曖昧なものではなく、かなり鮮明な状態で残っていて深夜に物思いに耽け入ったり、過去に浸りたい気分の時、私の体には便利な機能が搭載されたものだなとつくづく思う。だから私は大切な出来事の帰り道に、忘れたくない夜に、とっておきの音楽を選んでは繰り返し聴くようにしている。一つの曲でも、様々な種類の記憶が幾重にも連なっている場合もあって一小節目のこのあたりはあの時の涙と、サビはあの日の苦しみと、大サビ前の転調は確かあの雨の日の別れといった具合で。あまりにも色濃く残る思い出の曲は、良くも悪くも強烈にその頃の自分に引き戻されてしまうから精神が安定している時ではないと受け付けられない。例えば私が偉人だったとして、生きた証が後世に残せるのであれば、これまでも今もこれからも音楽と共に生きたことを伝えるために、自伝に付録CDを付けて発売したい。850円(税抜)のマイベストタイムミュージック。無理ならせめて、人生のプレイリストを作って葬式で流したい。木魚で刻むエイトビート。ねえみんなでサ、泣きながら踊ってよ。ずっと何の話?音楽が好きだ。