パンチラ追って知らない街へ

すべて作り話です。

出涸らし木枯らし

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一番楽しみにしていた出来事が、あっという間に終わってしまって、だれがどう見ても腑抜けている。燃えカスである。と漏らしたら同じ境遇の子らも同様で、私だけではないらしかった。仕事にモチベーションを持ち込まないことは大切であると心得ているし、これまで意識してなんとか浮き沈みのないようやってきたつもりだけど、つい影響されて空っぽになってしまうほど私にとってとびきり嬉しくて、幸せな体験だったらしい。こればかりは仕方がない。更に言うと今日は低気圧ということも相まって、頭が痛いし体も重たい。一日中気だるさに分厚く覆われていて、全く業務に身が入らなかった。今日はもう、本当に仕方がなかった。ずっとあの瞬間と、光景を何度も何度も思い出していた。夢の中にいるみたいに、幸せだったことだけは確かだった。年甲斐もなく、浮かれほうけていた。でもそれが許される夜だった。

同じ境遇の子たちと、わたしたちはこれから一体何を目標にゴールに向かっていくべきかと深刻な顔して話してもみたけれど、しばらくは見つからないんだろうと思う。きっと、途方もないくらいただの日常が待ち受けているにちがいなく私たちはその中でほんの少しの光を頼りに、また地道に歩いていくしかない。ただもう少しの間だけ、この幸せな抜け殻の状態でいたい。

ずっと欲しかったものを手に入れた経験、口に出すことも憚られるくらいに遠くて大きな夢を叶えることができた経験、人生ではじめて自分との約束を守ることができた経験。いままで誇れるものなんて何一つ持っていなかった私が、唯一胸張って人に言える自慢。そんなものを手にした日。これは、私の歴史に長く刻まれ、今際の際に走馬灯として流れることでしょう。今から人生のエンドロールがたのしみになってきた。

他人から見れば、大したものじゃないかもしれない。誰かにとってはくだらないものかもしれない。でも、私にとってはあまりに大切すぎる宝物で、思い出すたびに胸がジンと熱くなるような、そんな経験。大袈裟かもしれないけど、私の選択は、何も間違っていなかったと、今までとあの頃のわたしがまるっと全部報われたような気分でいる。そしてそれらは、誰にも奪われない。暗がりに怯えて、見えない未来を悲観して、価値がないと恐る恐る歩いてきた道はいま初めて、明るく照らされている。見通しの良くなった道の先には、今まで気がつかなかったいくつもの分岐があるらしい。私がこれから選ぶ道は、選ぶべき道はどこだろうか。それをまだわたしは、知る由もない。