パンチラ追って知らない街へ

すべて作り話です。

今日くらいは

帰り道に、自分でも分かるくらい地に足ついていない感覚が確かにあり、いつもは立ち寄らない成城石井でリッチなかぼちゃプリンを買った。

取り急ぎ、ささやかなご褒美である。

各所から送られてくるお祝いの言葉を何度も何度も読み返して、悦に浸りながら秋雨が降ったあとのひんやりと冷たい夜風を浴びた。

人生で貰った表彰みたいなものなんて、小2の時の盆踊り大会と高校生のときの皆勤賞くらいしかない。目立った特技があるわけでも、得意な科目があるわけでも、突出した才能があるわけでもない。実に平々凡々、成績オール3点みたいなどこにでもある人生で、可もなく不可もなくがお似合いの、よそ様に迷惑をかけることのないよう陰日向で暮らしてきた取り立てて無害な人間は、この度、会社から正式に「頑張ったね」って認めてもらえた。

大人になると、褒められることなんてほとんどなくなる。自分が頑張っているのかどうか、分からなくなる。頑張り方や向かうべき道が正しいかどうかなんて誰も教えてくれないし、案外人の道には誰もさして興味がない。けれど正式に対外的にそう言ってもらえた上に、それがなんと目に見える形で祝っていただけるときたもんだ。浮かれないほうがおかしいよ。こんなろくでもない私なんかが、そんなことしてもらえるはずがないと思ってて今でも思っているからか、いまだ夢見心地で全くもって現実味がない。朝起きて、全部嘘でしたと言われても今ならまだ笑って済ませられる。自分にはあまりにも縁のない出来事で、こういうときの正しい振る舞い方がまったく分からなかった。でも、素直によろこびたい。今日くらいは。

うらやましくて、指を咥えながら、でも出来る限り見えないふりしてきた憧れの景色を、わたしはやっと見ることができるらしい。大きくて重たい荷物たちを、今一度背負い直した。6年間、口に出すことも憚られるほどの遠くて大きな夢が叶った日。