パンチラ追って知らない街へ

すべて作り話です。

入浴、それすなわち

寒さと疲れによって固く強張った身体をあたためるために湯を張った。

水道代節約とは名ばかり、ただひたすら面倒で平日に湯を張るのは私の生活において大変めずらしいこと。帰宅即、ソファに横になるともうなんもしとうない状態になってしまう。そんな弱い自分を断ち切るべく、一度も尻をつけることなく風呂場へ直行した。お気に入りのバスソルトはラベンダーの香り。全然湯船に入らないせいで買ってから1年も経つ。使用期限は見当たらないのできっとセーフだと思う。シュワシュワと音を立てて溶け出ていく様子を眺めながら、ラベンダーの優しい香りに包まれる。かじかんだ爪先がみるみる赤らんだゆき、じんわりと血が通っていく感じ。ラベンダーの香りを胸いっぱいに吸い込んだあと、今日の疲れもいっしょに溶け出していくように思えた。

日本人の遺伝子に刻まれた湯船に浸かる文化よ、これは今日の限界総合職独身アラサー女を救うためにあったにちがいない。女の風呂は大仕事であり、浸かるだけならいいものの、その後化粧落とし、洗顔、洗髪、トリートメント、身体、除毛、上がった後のスキンケア、ボディークリーム、トリートメント、ドライヤーと続く。今書き出しただけでもなんという工程の多さだ。男が隙あらば風呂に入るのは、この工程がほとんど必要ないからだろう。心底羨ましい。

聞いたところによればお風呂に入ることや、その後の工程を怠らないことは自己愛によるものらしい。自分を健全に愛している人は、きっとそれらを厭わない。今日じっくり湯船に浸かって、隅々まで垢と厄を洗い流し保湿を重ねたうえ、寝床でリップクリームを塗るまでを遂行できたのは、今日の自分をしっかり愛でることができた証。明日も明日の自分をきちんと大切にしていけますように。