パンチラ追って知らない街へ

すべて作り話です。

「そばかす」

インターネットで予告を見てからずっと楽しみにしていた映画を観てきた。上映館が限られていて、東海地区では唯一の「刈谷日劇」まで。f:id:rccp50z:20230218171739j:image

わたしはミニシアターが好き。ミニシアターの定義は、座席数が300以下の小さな映画館。大手のシネコンでは上映されないようなマイナーかつ、低予算な作品が上映されることが多く、そのためアート性、ドキュメンタリー性の多い作品や、デビューしたばかりの監督・俳優の作品が観られることが多い。確実に客入りが見込める大手シネコンとは異なり、各館が作品を発掘・厳選して独自性を打ち出すことで、固定ファンも付いている。(wikiより)大きな映画館よりも、スクリーンの距離がほど近いので物語への没入感がある。映画を見ているとたまに頭の中が混乱したり、別の妄想を繰り広げて集中できないケースがあるけれど、それが少ない。更に、広場恐怖症でもしものときのためにできるだけ通路側の席を確保しておきたい私にとって、人が少ないミニシアターは安心して観られる最高の環境なのだ。愛知県にある「シネマスコーレ」「今池シネマテーク」「伏見ミリオン座」岐阜県の「CINEX」どれも大好きな映画館である。

思えば、これまで観てきた映画の中で強く印象に残っているもののほとんどが、ミニシアターで観てきたものだった。「百円の恋」「湯を沸かすほどの熱い愛」「滑走路」どれも興行収入で日本一を取ったり、インターネットでハネたりこそなかったものの私にとって、その後の価値観を大きく変えてしまうほど影響を受けた作品たちであることは間違いない。ミニシアターで見る映画はいつも一人きりなので、その分抱いた感想も自分の中に新鮮な状態で落とし込めるからこそ、他の作品よりも色濃く記憶しているんだろうなと思う。そんなことを発信していたら、長年相互でSNSをフォローしているフォロワーが刈谷日劇を教えてくれた。丁度予定のない土曜日だったので足を運んでみることに。

刈谷市駅からすぐそばにある愛三ビルの5階。1階にはローカルなパチンコ屋と、喫煙所がある。エレベーターもあったけど、せっかくなので5階まで階段で向かってみた。大理石の壁一面にたくさんの上映予定、あるいは上映中の映画ポスターが掲示してあった。それらを眺めて最新作を知ったり、ポスターデザインそのものを楽しんでいた。ビルの窓から名鉄電車が見えるのも風情があって好きな景色。

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館内に入ると、派手な画で装飾された壁がある。直接触れてみたけど、プリントではなくて本当に書いてあるものらしかった。昔ながらの赤い座席が並べられているささやかな待機場所が味わい深い。コルクボードで作られた掲示板には、新作の上映を希望する声や、鑑賞後の感想が綴られた付箋がたくさん掲示されていた。そんな映画好きな人々のあたたかさに触れられるのはミニシアターならではのもの。f:id:rccp50z:20230218174041j:image

上映場所に入るとこじんまりとしたスクリーンに、100席はないくらいの赤い座席が並べられている。上映5分前にもかかわらず、観客は5名ほどしか見当たらなかった。ライブハウスでもそうだけど、同じ日の同じ時間同じ場所で同じ映画を見るに至った人達とは謎の心の一体感がある(気がする)なんかこう、突然災害に見舞われたとしても助け合えるようなそんな感じの。私だけかもしれません。シンと静まり返った場内が暗転し、予告が流れる。大きな映画館と違って、予告もミニシアター系の映画ばかりでそれを見ることもまた面白かったりする。

映画「そばかす」は、三浦透子演じる蘇畑佳純が周りから強いられる結婚や恋愛に対する違和感を感じながらも、自身のアセクシュアルを受け入れながら前向きに、そして力強く生きようとする物語。(あらすじ下手くそだなー)世代的にも、内容的にも今の私と重なる部分が多くあり、蘇畑佳純が周囲に抱く憤りや自分のことを正しく理解してもらえない無力さに強く共感できた。こういった映画がもっと増えて、広く評価される世の中になればいいなとも。女性には一人一人異なる、様々な色合いのシンデレラストーリーがあって然るべきもの。そんなことを感じながら、エンドロールで流れる「風になれ/三浦透子」(楽曲提供は羊文学)が、観終わったあとに強烈な意味を持って流れていて、最後に一番感動した。「走る、その先に、どんな未来がきたってきっと今ならば目を逸らさないよ」良い映画だった。そして、いつもならだらけて終わる雨の土曜日を、素敵な1日に塗り替えることができた達成感たるや。将来は近所に図書館とライブハウスとミニシアターのある街に住みたい。