パンチラ追って知らない街へ

すべて作り話です。

質の悪いエンジン

6年か7年前に書いた日記を開いて読んでいる。今は今期最大、GW10連休一日目の深夜2:11にあたる。今回の長期連休において目標としていた「生活リズムを崩さない」はあっけなく初日から達成することができなかったみたいだ。私は深夜が好きだから仕方がない。普段、健康的な毎日をいやでも強いられている真面目な社会人は、久しぶりの深夜をおいしく味わっているのだ。世間では、睡眠時間が短いことによる健康被害が叫ばれており、将来的に健康を害することは知っての通りではあるけれど、こんな長期連休の最中、早く寝られるわけがない。最近の楽しみは歌舞伎町一番街ライブカメラを覗き観ること。眠らない街、歌舞伎町を行き交う人々を眺めていると不思議な気分になる。カメラに映るラーメン屋の前で、入店を迷う人々を、満腹になって腹を撫でながら退店する豊満なサラリーマンを、この先二度と出会うことのないような身なりをした千鳥足のホストらしき人を。田舎者だからこそ、ささやかな憧れも含んでいるんだろうな。毎日欠かさず眺めている。6年か7年か前の日記には丁度就職活動をしている不安に苛まれた一人の少女が、体重を気にしていてとても可愛かった。あの頃少女だった私も同じく深夜を味わっているときによく文章を書いていた。なんのアテもなく文章をだらだらと書き認めることを好むのは今と何ら変わらないようだ。あの頃の少女にこう告げたい。あれから私は満足な職に就いて、それなりの賃金をもらい、そして今は一人で暮らしをしていること。聞いたらさぞかし驚くんだろうな。就職活動が面倒で、なかなか本腰を入れて取り組めなかった少女は質の悪いエンジンを携えた車のようだと自身を例えていたけれど、残念ながらそれも変わっていない。何かの始まりに抱く情熱なんかはたった数日で朽ち果ててしまう燃費の悪い車は、簡単に治せないみたいだ。それでも私は今の暮らしに十分満足していて、この車で事故を起こすことも少なくなり、扱いにもだいぶ慣れてきた。きっと乗り心地はあの頃よりうんと良いと思う。時の流れの速さはあの頃よりもまたずっと早くなってしまっている。タイヤがすり減る速度も随分と速い。だけど、楽器やジーンズと同じようにその車にはきっとヴィンテージの価値があるから、どうか大切にこれからも乗りこなしていってほしい。そんな風に自分を認めてあげられるようにもなるんだよ。認めてあげるというよりは、自分の身の丈を知って折り合いをつけるにほど近いような気もする。ただそのことにはまだ、気づかないフリをしてあげてほしい。これは、未来の私に向けた願いでもある。深夜2:26。私はもう少しだけ期間限定の深夜を味わうことにする、生活に故障が出ない程度の。