パンチラ追って知らない街へ

すべて作り話です。

分人(ディヴ)

一人目

彼女はとても天真爛漫で、だれにでも分け隔てなく接することができる。優しさに満ち溢れていて、争いを好まない様子だ。仕事でもめいっぱいの明るさで対人関係をそつなくこなし、愛される人柄でまかり通っている。休日には料理やお菓子作りに精を出し、色とりどりの食事を用意することもしばしば。友人は決して多くないけれど、気の合う友達ばかりで、狭く深く、そして長く関係を続けている。そんな彼女はよく人から「悩み事なんてひとつもなさそうだ」そういわれることが多いらしい。

二人目

彼女は孤独を愛してやまず、隙あらば一人でいられる場所を見つけてそこに何時間も、何日でも居続ける。その時は音を嫌いシンと静かに、その日生きるうえで最低限の栄養と水分を摂取し、身を潜めるかのようにして時が過ぎるのをただ待つばかり。足の踏み場もないような荒れ果てた部屋の隅、キッチンには数日前にこぼした味噌汁のシミと、いつから放置してあるのかわからない洗い物の山。ほこり被るテレビの横に佇む干からびた観葉植物が、水を求めているようにも見える。ただ彼女はなにもしない。できないのだ。

三人目

彼女は世の中のすべてを憎んでいて、自分以外の人間は皆間違いだと思いながら生きている。気に入らないことがあれば、暴れ狂って何もかもを滅茶苦茶に破壊したり、奇声を上げて走り出したい衝動を懸命に堪えながら、まるでまともな人間みたいな顔をしている。ごくたまに壁に頭を打ち付けたり家の家具を叩き壊したりしながら必死に平静を保っているのだそうだ。

四人目

彼女は女性の性を与えられて、それらしく振る舞い、所作や見なりにも気をつけているが実のところそういったものに頓着がない。精一杯の努力の末にふつうの女性になりすましている。周りの女性は年を重ねながらにして、自分の美しさに磨きをかけているのだが彼女は依然として、興味が湧かないのだ。今でも化粧品やきらびやかなジュエリーよりも、ラジコンやプラモデルの方が欲しいと思っている。願わくば男に生まれてみたかった。

五人目

彼女は生粋の男好きで気に入った異性を堕とすことに日夜、精を出している。好きな男の前ではためらいなく女の顔をして人のものに手を出すことも珍しくない。背徳感と優越感と承認欲求、そして性欲が満たされればあとはなんでもいいんだそうだ。

にぎやかな5人の女性たちはたった一つの体で、今日もいろんな顔をしている。