パンチラ追って知らない街へ

すべて作り話です。

トゲの在る場所②

トゲの在る場所

ひとりで反省をして帰るには長すぎる道のりを車で走らせながら何度目かのため息をついた。夕暮れ時になると一気に視力が落ちてきて、対向車線の境目があいまいになる。向かってくるヘッドライドのなかに浮かぶのは今日の間抜けな自分の姿だった。遠くの信号のかろうじて分かる青色、輪郭はぼんやりとしている。ボーっとしながらの運転は良くない。曲がるところをまちがえた。

そんなにわたしのことをバカにしてくれるなよ。

トゲのある場所いまなら、よくわかるけれどまだどうにも上手に取ることができない。トゲがトゲであることは理解できて、それが危険だという認識もあるのにくぐり抜けたりまたいだりすることができないのだ。痛くても突き進むしかなくてやっぱり傷だらけになって、元いた場所よりずっと後ろに舞い戻るのだった。

そんな毎日を過ごしていて感じるのは壁の向こう側にいるひとたちの声が小さく、そして遠くなっているということ。この前もそのトゲの取り方おしえたよね、乗り越え方はもう知ってるはずだよね?どうしてできないの、すぐに忘れてしまうの。と言った具合で。大人だからもう露骨に態度に示したり、声色を変えたりすらしないものの、気分は、人に、伝染するから分かるんだそういうの。

思い過ごしだといわれたらそれまでだけれど、勝手に傷ついて腕に力が入らなくて登れないでいる。

だって教えもらったはずなのにずっとできない。

厳しく背中を叩かれることや辛辣な言葉を投げられることは愛だったと気付いていたからこそわたしにはそれがなくなる瞬間がいやになるほど分かるのだ。まだわからないこの壁の登り方を、声の出し方を、向こう見ずの景色をわたしはもうあの頃のように知ることができないのだとおもうと途端に途方もなく虚しくなるのだった。

登り始めることも、降り始めることも容易かった。なにより大切なことは、なにより難しいことは、このトゲだらけの壁を"登り続けて"いくことだった。腕に力が入らない。足がふるえて次の一歩が踏み出せない。