パンチラ追って知らない街へ

すべて作り話です。

きみのヒーロー①

ありきたりな感情だけど、悪い夢だったらいいのにっておもった 昨日の夜は眠れなくて頭が痛かった。朝からお母さんが電話に向かってむせび泣いていて現実みたいだった。今朝 憔悴しきっているであろう神奈川の叔母さんの元へ向かうためにお母さんを駅まで送ってきた。亡くなったのはもう一週間も前の出来事だった。マンションから飛び降りたとのことで、何階からかは聞けなかった。

やるせない って多分今使うべき言葉なんだと思う。やるせないよ、なにも施してあげられなかったんだもん。世界はね、ほんの19歳で全てを理解できるほど狭くはなくってさ、地平線の先が見えてくるのはもう少しあとからなんだよって教えてあげたかったな。世界はこんなに広いんだ、ぼくはどうしてこんなちっぽけなことで悩んでいるんだろうって思わせてあげれてたら、結末は違ったかもしれないとおもうんだけど。でもきっと、そうじゃないんだよね。そんな容易いことじゃなかったんだよね。あの子はあの子にみえている世界の中で狭いとか広いとかじゃなくって限界だったんだよね。でもさ、まだ小説でいっても まえがき あたりだったんじゃないの?まだ物語の序章にもさしかかってないのに自分で破り捨てるなんてひどいよ。死ぬ勇気があるくらいなら生きることだってできたんじゃん。飛び降りてうっかり助かっちゃって骨折ぶら下げた手を親にぶん殴られてふざけんなって怒られて。ぼくは死んじゃダメな人なんだって思い知らされればよかったんだ。なんで死んじゃうかなあ。わたし死にたいと思ったことなんかない。まだめちゃくちゃ生きたい。行きたいライブがあるし出会いたい人がいるし聴きたい音楽があるし読みたい小説があるし食べたいご飯があるし。就職も結婚も出産もぜんぶ一通りやりたい。失敗するかもしれないけどやりたいよ。だからまだ、全然生き足りない。

助けてあげたかったなんてよく言うよね、こんなに生きたがっているわたしが死にたがってるひとのきもちなんて分かるはずないんだもん。だけど、わたしがどうしてこんなに生きたがることができるのか少しくらい教えてあげれたとおもうんだけどな。それからおまえ男でしょチンチンついてるんでしょって一発股間蹴り上げて喝入れて、真っ直ぐに続く道のこと教えてやりたかったな。あの時はまだお互い、ケツ青かったもんね。成長したきみはわたしの背丈を超えていたんだろうか。

残念ながらばーちゃんきっと老い先短いだろうし、それなりに覚悟してて。近い将来そういう場で会って久しぶり変わったね、って言い合うの楽しみにしてたんだけど。ケツが青かったときの顔しか思い浮かばなくてごめんね。わたしのことはきちんと覚えてくれてるのかな。

線香、あげさせてもらえないみたい。さよならも言えない。法律っていうのはさ、お堅いものだよね。みんな泣いてるよ。ちゃんと愛されてたんだよ。なにに絶望しちゃったんだよどれだけ追い詰められてたんだよ、ほんと。そっちに行ったってつまんないでしょうが 何があっても何を思っても終わらせたらダメなんだって、それだけはほんとにダメだって。馬鹿野郎馬鹿野郎馬鹿野郎。ほんとにほんとに馬鹿野郎。わたしあんまりひとに暴言吐かないけどさ、馬鹿野郎だよ。

わたしはこれからも生きるよ、ずっとずっと。きみのぶんまでなんて綺麗事絶対に言わない。言ってやらない。わたしはわたしの人生をきちんと全うする自分で手放したりしないから、見ててよね。気づいてあげられなくてごめんね、力になれなくてごめんね痛かったかな辛かったかな苦しかったかな、たくさん悩んだよね。ほんとはほんとは死にたくなんかなかったよね。良い人生を生きたかったに決まってるよね、でも、楽になれましたか。悲しいよ、すごくすごく寂しいよ。いまはただ悲しみに打ちひしがれるしかできない。ひどく、無力だ。